親や兄弟などの親族が借金を残して亡くなると、相続人が借金を返済しなければなりません。借金だけではなく未払いの家賃や滞納税など、すべて相続されます。
負債を相続したくない場合には、早めに家庭裁判所で相続放棄などの手続きをとる必要があります。相続放棄には期限もあるので、急いで手続きをしましょう。
借金をはじめとする負債を相続した場合の対処方法を解説します。
このページの目次
1.相続の対象となる負債
借金などの負債も、基本的に相続の対象になります。よくあるのは以下のような負債が残されるケースです。
- 消費者金融からのキャッシング、ローン
- 銀行カードローン
- クレジットカードのキャッシングやショッピングの残債務
- 損害賠償債務(交通事故など)
- 未払いの家賃
- 未払いの水道光熱費
- 未払いの通信料(スマホ代、インターネット通信料)
- 事業者の場合、未払いの買掛金など
- 未払いの税金(住民税、固定資産税、所得税など)
- 未払いの健康保険料
上記のような負債が残された場合、相続人である子どもやきょうだいなどが支払わねばなりません。放っておくと債権者から督促されます。訴訟を起こされたり財産を差し押さえられたりする可能性もあるので、早めに対処しましょう。
2.負債を相続しない方法は2つ
負債を相続しない方法は、主に以下の2つです。
2-1.相続放棄
1つ目は「相続放棄」です。相続放棄とは、相続人である地位を放棄して一切相続しないための手続きです。
相続放棄した人は「始めから相続人ではなかった」ことになるので、資産も負債も一切相続しません。どんなに高額な負債が残されていても相続しなくて済むので、安心できるでしょう。
また相続放棄は各相続人が単独でできます。他の相続人と足並みを揃える必要はなく、連絡を取り合う必要もありません。
遺産内容が明らかに債務超過で特に相続したい資産もないなら、早めに相続放棄しましょう。
2-2.限定承認
2つ目の方法は限定承認です。限定承認とは、相続した資産の範囲で負債を支払うための手続きです。プラスの遺産とマイナスの遺産を清算し、全体としてマイナスになれば一切相続しなくて済みます。プラスになる場合には、プラス部分のみ相続可能です。
ただし、限定承認の場合、相続人が全員共同で手続きをしなければなりません。1人でも単純承認(原則とおり資産も負債も相続すること)してしまったら、もはや限定承認はできなくなります。
遺産の全容が解明されておらず資産超過か債務超過か分からない場合には、限定承認するメリットがあるでしょう。他の相続人と連絡をとりあいながら、早めに手続きを進めてください。
2-3.相続放棄、限定承認の手続きの進め方
相続放棄や限定承認の申述は、「家庭裁判所」にて行います。単に「相続放棄します」などと書いた書面を他の相続人に渡しても意味がないので、注意しましょう。
相続放棄の場合、家庭裁判所へ以下の書類を提出し、受理されれば完了します。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
他に戸籍謄本類が必要になるケースもあるので、詳しくは専門家や裁判所へ確認してください。
限定承認の場合には、上記以外の戸籍謄本類や遺産目録、財産関係資料なども必要です。
どちらの手続きも、申述先の家庭裁判所は「被相続人の最終住所地を管轄する家庭裁判所」となります。
2-4.相続放棄か限定承認かの選び方
相続放棄か限定承認か迷ったら、以下の基準で判断すると良いでしょう。
相続放棄すべきケース
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限定承認すべきケース
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どちらの手続きをとるべきか迷ったら、弁護士までご相談ください。
3.相続放棄、限定承認する場合の注意点
相続放棄や限定承認するときには、以下の2点に注意しましょう。
3-1.期限がある
相続放棄や限定承認には「期限」があります。具体的には「自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内」に家庭裁判所で申述しなければなりません。この3ヶ月の期間を法律上、「熟慮期間」といいます。
「自分のために相続があったことを知った」とは、基本的に「相続開始を知った」のと同じ意味です。後順位の相続人の場合、「先順位の相続人が相続放棄した事実」を知った時点から起算します。
3ヶ月を過ぎると家庭裁判所で相続放棄や限定承認を受け付けてもらえなくなり、負債を全部相続するしかなくなる可能性が高まります。
借金を相続したくないなら、急いでどちらかの手続きを進めましょう。
3-2.遺産に手を付けると単純承認が成立してしまう
相続放棄や限定承認をする場合、「法定単純承認」にも注意が必要です。法定単純承認とは、法律上当然に単純承認が成立してしまうことです。法定単純承認が成立すると、もはや相続放棄や限定承認はできなくなります。
法定単純承認が成立するのは、以下のようなケースです。
遺産に手を付けてしまった
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このように、遺産に手を付けてしまったら法定単純承認が成立して相続放棄や限定承認が認められなくなります。借金を相続したくないなら、遺産には触れないようにしましょう。
限定承認の申述を行うときに、財産隠しをしようとして虚偽の財産目録を提出すると、法定単純承認が成立して限定承認も相続放棄もできなくなってしまいます。限定承認を行うときには正直に財産内容を申告しましょう。 |
相続放棄や限定承認には期限がありますが、「相続開始を知ってから3ヶ月」を過ぎても例外的に相続放棄等ができるケースがあります。 たとえば生前に被相続人とまったく交流がなく、死亡時に被相続人に目立った資産もなく、相続人が「遺産がないと信じてもやむを得ない状況があった場合」などです。 また熟慮期間内であれば、家庭裁判所へ申し立てることによって期間を延ばしてもらえるケースも少なくありません。 相続開始時点からある程度期間が経過していても、諦めずに弁護士までご相談ください。 |
4.負債を相続してしまった場合の対処方法
ときには期限内に相続放棄や限定承認できず、借金などの負債を相続してしまうケースもあるでしょう。
また、どうしても守りたい資産があって相続放棄が難しい状況も考えられます。そういった場合、遺された負債を相続せざるを得ません。
相続した借金を払えない場合、どうすれば良いのでしょうか?
4-1.債務整理する
負債を払えないなら債務整理によって解決しましょう。債務整理とは、借金を整理するための手続きの総称です。主に任意整理、個人再生、自己破産の3種類があります。
4-2.債務整理の種類
任意整理とは、債権者と交渉して利息をカットしてもらい、借金の支払い総額や支払期間を調整する手続きです。相続した負債の金額があまり大きくない場合に適しているといえるでしょう。 |
個人再生は、裁判所へ申し立てて借金を元本ごと大幅に減額してもらう手続きです。負債額は5分の1~10分の1にまで減額される可能性があります。高額な負債が残された場合に有効な対処方法となるでしょう。 |
自己破産は資産と負債を清算し、残った借金をすべて免除してもらう手続きです。ただし自己破産する場合には、不動産などの資産を残すのは難しくなり、相続人自身の資産も失われるので注意が必要です。 守りたい資産がなく高額な負債を相続してしまった場合には、自己破産すると良いでしょう。 |
5.債務整理の注意点~税金、保険料は免除してもらえない~
負債を相続したとき、債務整理をしても解決できないケースがあります。それは「税金や健康保険料」などの公的な債務を相続した場合です。
これらの債務は、自己破産をしても免責してもらえません。もしも未払いの税金や健康保険料などを払いたくないなら、早めに相続放棄しましょう。遺産の中から支払えるようであれば、早めに支払うようお勧めします。
どうしても支払えない場合には、所轄庁と協議をして分割払いなどの相談をする方法もあります。
放っておくと滞納処分として差押を受ける可能性があるので、早めの対処が重要です。
借金などの負債を相続したとき、放っておくと大きな不利益が降りかかってしまいます。相続放棄や限定承認にも期限があるので、早めに対応しなければなりません。負債の相続でお困りの方がおられましたら、お早めに弁護士までご相談ください。