自己破産をしても、借金を免除してもらえないケースがあります。それは「免責不許可事由」がある場合です。
浪費やギャンブルによって大きな借金を作った場合が典型ですが、実は他にもたくさんの免責不許可事由があるので正しい知識を持っておきましょう。
自己破産の免責不許可事由としてどういったものがあるのか、免責不許可事由がある場合の対処方法を含めて解説します。
このページの目次
1.免責不許可事由とは
免責不許可事由とは、該当すると「免責」を受けられない事情です。
免責とは、裁判所が破産者の借金を0にする決定をいいます。破産しても、免責されなければ借金はなくなりません。
自己破産をすると一定以上の財産がなくなりますが、免責を受けられなければ借金がそのまま残ってしまうので何の意味もありません。単に財産を失っただけで終わってしまいます。
免責不許可事由のある方は、自己破産するかどうか慎重に判断する必要があるでしょう。
2.9個の免責不許可事由
免責不許可事由は破産法によって規定されています。以下でどういったケースが該当するのか、みていきましょう。
2-1.浪費、ギャンブル、射幸行為
まずは浪費、ギャンブル、射幸行為が挙げられます。
浪費は無駄遣い、ギャンブルは賭博などの行為、射幸行為とは投資や投機行為、すなわち先物取引やFX、仮想通貨取引などが該当します。
浪費やギャンブル、投機行為のために収入に釣り合わない大きな借金をしてしまったら、免責不許可事由になります。
具体例
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2-2.財産価値を減少させる
債権者を害する目的をもって財産を不当に減少させると免責不許可事由に該当します。
たとえば、破産によって財産を失いたくないので他人名義に変えたり財産を捨てたり毀損して価値を減少させたりする場合などが典型です。
具体例
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2-3.不利益な条件で債務を負担する
自己破産する予定があるにもかかわらず、不利益な条件で負債を負担したり、クレジットカードの現金化をしたりすると、免責不許可事由になります。
具体例
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2-4.一部の債権者にのみ支払う偏頗弁済(へんぱべんさい)
自己破産前や破産手続き中、一部の債権者のみに支払いをすると「偏頗弁済(へんぱべんさい)」として免責不許可事由になります。
偏頗弁済とは、債権者のうち一部を優遇して支払ったり担保権を設定したりする行為。
自己破産では「すべての債権者を平等に取り扱わねばならない」という「債権者平等の原則」が適用されます。一部の債権者にのみ支払いをすると債権者平等の原則に反するので、免責不許可事由とされてしまうのです。
保証人のついている借金があったり、携帯電話や家賃未納分が溜まっていたりしても、まとめて払うと偏頗弁済になる可能性があるので注意しましょう。
具体例
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2-5.虚偽の債権者名簿
自己破産をするときには、すべての債権者を裁判所へ報告しなければなりません。
それにもかかわらず、一部の債権者を隠して虚偽の債券者名簿を提出すると、免責不許可事由になってしまいます。
たとえば、個人から借入をしているとき、破産手続きに巻き込みたくない、迷惑をかけたくないという思いから弁護士に申告せず、債権者名簿から漏れてしまうケースがあります。
そういった場合、免責自体を受けられなくなるリスクが発生するので、注意しましょう。
ただし、故意ではなく、本当に債権者のことを忘れていた場合には免責不許可事由になりません。
2-6.詐術による借入
既に自己破産しなければならないような状態になっているにもかかわらず、「返済意思や能力があるフリをして借り入れる」と免責不許可事由になります。
これを「詐術」といいます。
詐術が成立するのは、破産手続き開始決定前の1年間。それ以前の借入であれば詐術には該当しません。
たとえば、自己破産前、自転車操業状態になっていて到底返せないにもかかわらずキャッシングなどを申し込んで借入を行い、一度も返済しないまま自己破産を申し立てると「詐術」に該当する可能性があります。
なお「詐術」といっても「詐欺をはたらいた」という意味ではありません。あくまで「自分の支払能力について嘘をついて、返せると思わせて借り入れた」場合に詐術となります。
支払能力や支払意思以外の部分で嘘をついて借り入れたとしても、詐術にはなりません。
2-7.7年以内に免責を受けている
自己破産は、人生において何度でもできます。ただし、前回の免責から7年以内に自己破産を申し立てても免責を受けられません。
あまり頻繁に自己破産を繰り返すと債権者に不利益が及ぶからです。
同様に「個人再生のハードシップ免責を受けた場合」にも、その個人再生の再生計画案認可決定日から7年間は免責を受けられません。
給与所得者等再生を申し立ててその再生計画案をきちんと遂行し、完済できた場合も同様です。
免責を受けられないパターン
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個人再生をしても免責を受けられるパターン 個人再生の再生計画案認可決定から7年以内であっても、以下のような場合には免責を受けられます。
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個人再生を利用する場合、一般的には小規模個人再生を適用する方が多く、ハードシップ免責を受けられるケースは少数ですので、多くの方が自己破産に際しての支障はありません。
2-8.裁判所や管財人の調査に協力しない
破産者は、裁判所や破産管財人による調査に誠実に協力しなければなりません。
裁判官や破産管財人から説明を求められたときに拒否したり無視したり嘘をついたりすると、免責不許可事由と判断される可能性があります。
手続き進行中、裁判所や破産管財人から連絡があったらすぐに対応しましょう。
また、破産管財人が財産を換価する手続きにも協力しなければなりません。
管財人との面談日には遅れずに管財人の事務所へ行き、財産資料は残さず引き渡しましょう。財産内容について質問をされたらきちんと回答し、換価業務で協力を求められたら進んで協力してください。
2-9.帳簿の隠滅、変造
個人事業主や法人の場合、業務用の帳簿をつけているはずです。
たとえば、売上げ台帳や出納帳、決算書、確定申告書など。これらを隠滅したり内容を書き換えたりすると、免責不許可事由になってしまう可能性があるので注意しましょう。
3.裁量免責について
ギャンブルや浪費などの免責不許可事由がある場合でも、絶対に免責を受けられないわけではありません。
実は「裁量免責」という制度があり、多くの免責不許可事由のある方が免責を受けられています。
裁量免責とは、裁判官が裁量によって免責を認めることです。以下のようなケースでは、比較的裁量免責が認められやすいといえるでしょう。
- 免責不許可事由が軽微で悪質ではない
- 浪費やギャンブルによってできた借金額が少額
- 本人がしっかり反省している
- 浪費やギャンブル、投機行為などの問題行動をすっぱりやめて真面目に生活している
- 自己破産を申し立てるのが初めて
免責不許可事由があっても免責を受けられるケースは多いですし、万一免責を受けにくい状況であっても、個人再生などの他の債務整理方法によって解決できます。
借金を返済できなくなってしまっても、あきらめる必要はありません。
浪費やギャンブル、偏頗弁済などがあって免責不許可事由が心配な方も、まずは一度弁護士までご相談ください。